イントロダクション

100年の時を超えて愛される傑作オペラが、
現代最高のドリーム・カップルの歌と演技で、スクリーンに永遠に刻まれる!

ロマンティックな物語と天才的な旋律が融合した、プッチーニの魅力

映画、演劇、美術、音楽──あらゆるエンタテインメントで、数多くの作品が生まれては消えていく今日でも、驚くほど長い歳月にわたって愛され続けているものがある。イタリア・オペラ界の天才と讃えられる作曲家、プッチーニの「ラ・ボエーム」も、その1つだ。初演は1896年のトリノというから、実に112年もの間、世界中の人々に親しまれてきたことになる。

 1600年頃に誕生したオペラは、ヨーロッパ文化の華として人々を酔わせ続けた。なかでもイタリア・オペラは、モーツァルトの影響を受けたロッシーニの活躍を経て、19世紀半ばに巨匠ヴェルディによって頂点を迎える。その後継者として現れ、19世紀末から20世紀にかけて大人気を博したのが、プッチーニだ。「マノン・レスコー」、「トスカ」、「蝶々夫人」、完成直前に亡くなった伝説の遺作「トゥーランドット」──これら綺羅星の如くいならぶ名作を差し置いて、最も頻繁に上演されている作品が、「ラ・ボエーム」なのだ。

 プッチーニのオペラの魅力は、感傷的でロマンティックな物語と、天才的なまでに美しい旋律の融合だ。高尚でありながら大衆芸術であるというオペラの本質を、見事に体現しているのだ。フランスの作家アンリ・ミュルジェの小説「ボヘミアン生活の情景」を、台本作家イッリカとジャコーザが脚色した「ラ・ボエーム」は、まさにそのプッチーニの魅力が最大限に発揮された作品なのだ。 舞台は19世紀半ばのパリ。どんなに貧しくても自由を謳歌して生きる若きアーティスト、“ボヘミアン”たちの愛と生と死の物語。「ラ・ボエーム」の舞台を現代のニューヨークに置き換えたブロードウェイ・ミュージカル「レント」 の記録的な大ヒットが示すとおり、“青春の挫折と希望”は、いつの世も変わらぬ普遍的なテーマなのだ。 この、人々が求めてやまない傑作オペラを、スクリーンに永遠に焼き付けたのが、映画『ラ・ボエーム』である。

不治の病に引き裂かれる恋──心を揺さぶる、美しくも悲しいラブストーリー

 クリスマス・イブの夜に出逢った、詩人のロドルフォとお針子のミミは、ひと目で恋におちる。屋根裏部屋で、芸術家仲間たちと夢だけを食べて生きているような暮らしだったが、互いの愛さえあれば、世界中の誰よりも幸せだった。ところが、不治の病を患っていたミミの病状は日に日に悪化、貧しさゆえに何もしてやれないロドルフォはミミとの別れを決意する。春がすぐそこまで来ていたある日、街の噂では裕福な子爵の世話になっていたはずのミミが、思わぬ姿で、ロドルフォの前に現れる……。

 心を揺さぶる美しくも悲しいラブストーリーの王道を、ドラマティックに演じきったのは、ミミに扮したアンナ・ネトレプコと、ロドルフォに扮したローランド・ビリャソン。2005年にザルツブルグで上演されたヴェルディの「椿姫」で共演して以来、2人は現代最高のドリーム・カップルと讃えられ、世界的な名声を獲得、アンナは“マリア・カラスの再来”とも呼ばれている。ドリーム・カップルを支えるのは、卓越したゴールデン・ヴォイスで、自由奔放に恋に生きるが、心根は優しいミュゼッタを演じるニコル・キャベル。ウィーン放送交響楽団のベルトラン・ド・ビリーの指揮の下、バイエルン放送交響楽団が演奏し、バイエルン放送合唱団が参加した。 監督は、「オペラ『ラ・ボエーム』を映画にしようと思った第1の動機は、2人の素晴らしい歌手を記念する物を作りたかった」と語る、ロバート・ドーンヘルム監督。デビュー作のドキュメンタリー映画でアカデミー賞にノミネートされ、カラヤンのドキュメンタリーや TVシリーズの「戦争と平和」などで高く評価されている。舞台では不可能な、映画ならではのリアリティに溢れた背景を描くために、スタジオ・セットで19世紀半ばのパリの街並みや店、アパートを完全に再現した。現在大ブームとなっている“ボヘミアン・ファッション”も忠実に再現、貧しくとも心は豊かだった時代を生き生きと描いている。